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妙福寺おすすめ本

2020/09/01

『えーえんとくちから』著:笹井宏之 ちくま文庫

140文字よりも少ない文字数で、自分の感情や世界観を伝える歌はじっくりと向き合わないと味わえない、ファストな読書と対局にあるものです。家にいる時間の長い“今”いかがでしょうか。
『えーえんとくちから』著:笹井宏之 ちくま文庫
 
昨年の誕生日に友人からプレゼントされました。
作者の宏之さんは1982年佐賀県生まれ。私と同じ年です。
2008年に第一歌集『ひとさらい』を刊行しますが、その1年後の早朝に深々と降り積もる白雪とともに、突然旅立たれた歌人です。
長い自宅での療養生活を送る中で自分の体と心の調子を整えながら音とコトバを紡いでいかれたのでしょう。
そのコトバは、澄み切った透明感と生命の輝きが溢れた唯一無二のコトバです。
 
「真水から引き上げる手がしっかりと私を掴みまた離すのだ」p.7
 
汗ばむ夏の日、真水に手を浸し涼をとり、そこから引き上げた冷えた手で自身を抱きしめ、生命を感じ日常に戻っていく。という力強さもありながら、大切な人が水に浸かっている、そこへ手を差し伸べ引き上げるが、また私の手から離れていく、という切なさや悲哀も感じます。そこへ作者の日常なんかも勝手に重ねて色々想像してしまうものです。
どんな本でも自分がどのように感じるか考えるか、が大切だと思いますが、殊更に歌は十人十色の感じ方があると思います。
その答えのなさ、正解のなさが魅力ですし、今の私に必要なのだなと感じます。
正解のないモノにじっくりと向き合い、色々な感じ方を楽しんでいく。
いつもの日常がゆっくりと流れるはじめ、とても贅沢な時間に変化していく。
オススメです。

妙福寺おすすめ本Comments(3)

コメント(3) 件

  1. ヨーコ
    こんばんは! 「えーえんとくちから」の」のご紹介有難うございます。 その方の特有の世界観を未熟な私に理解できるかわかりませんが、とても興味があります。 若くして旅立たれた方なら尚更です。 生と死にいつも直面していたのですから。 歌集「ひとさらい」とはドキッとしました。 お返事遅くなり申し訳ありませんです。 有難うございました。
  2. 住職
    ヨーコさん コメント有難うございます! 歌集は、読者が好きに、感じた通りに受け取って良いのだと思います。 理解出来ないものは理解出来ないまま受け取る事が大切です。 無理に、複雑なものや理解できないものを単純化して理解する事ほどつまらないものはありません。 昨今では、複雑な物事を単純化して、分かりやすく提供する事が求められます。 しかし、時には理解出来ない事や分からない事を、単純化せずに、複雑なまま受け取る事も大切だなぁと感じています。 ぜひ読んでみて下さい。じっくりゆっくりと味わって下さい。 そのうち感じた事をお伝え頂けたら嬉しいです。
  3. ヨーコ
    御住職様、先日は「えーえんとくちから」のご紹介有難うございました。 一首一首が一つの物語であり、童話のようでもありました。 研ぎ澄まされた感覚から生まれた歌は素晴らしく痛々しさは感じられません。 そこに彼女との眼差しさえ感じました。 彼女の晩年に窓を取り付けて日が暮れるまで磨いていたい…という彼に、 死してまで愛し続けるという美しさに感動いたしました。 病であっても彼女との愛があるからこそ自分の存在を尊いものとして再認識が出来て良かったと安堵いたしました。 人は最後の最後は愛なのですね。 好きな一首は 「ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす」です。 彼女は気付いてくれて全身で笹井様を 抱きしめてくれるでしょうね。 この本は愛であふれていました。 幼少期~青年期の苦悩、そして愛を見つけられ、全身・魂まで愛に包まれた生涯であった事に安堵いたしました。 素敵な本のご紹介を有り難く感謝致します。 この二人の永遠がまだまだ続く事に拍手をおくりたいです。 そして、笹井宏之様の御冥福を心よりお祈り申し上げます。 初めてのコメントでドキマギしましたが、文章の変な所は、大目、甘めで見て下さいますようにお願い致します。 有難うございました。

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