この本は書坊主催のイベントで、ある参加者の方が紹介していたのでフムフムと手に取ってみたのですが、笑って泣いてまた笑って、と最高の随筆です。
立川談志の弟子である談春さんの自伝なのですが、話が面白い人は文章も魅力的です。言葉の素晴らしいリズムとストーリーの起伏であっという間に読み終えてしまう気楽さがありながら、人生を考えさせる深みもあります。
ちょいと長めですが、私が痺れて動けなくなった部分を紹介します。
談春さんの弟弟子で立川志らくという方がいます。まぁ有名な方ですね。
後から弟子入りしたとはいえ、類稀なる才能でグイグイ頭角を現す志らくに対して談春は嫉妬をします。
やること成すことに難癖をつけたり、揚げ足を取ったりと、兄弟子なのに自分が周りに認められない悔しさを、そのような形でぶつけてしまいます。
その事を察した師匠「立川談志」は談春と二人きりになり、云います。
「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」
「己が努力、行動をおこさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。芸人なんぞそういう輩の固まりみたいなもんだ。だがそんなことで状況は何も変わらない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方がない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」
どうでしょう。
「現実は正解なんだ、現実は事実だ」とズバッと言い切る談志さん。もうブッダですね。
昨今は子弟関係という形が珍しくなってきましたが、良い師匠を得るというのは幸せな事ですね。
お寺の世界はまだ子弟という形が色濃く残っている方だと思います。
私も師匠と思える方が何人かいます。
この本を開く度に、その方々の声や教えが記憶から呼び覚まされ、フレッシュな気持ちになります。
良かったら手に取ってみてください。
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